刑法各論 暗記帳予備試験口述対策・全23講 全177問
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第1講〜第16講第1章 個人的法益に対する罪

第1講

生命に対する罪

Q1〜Q33問
条文・保護法益

199条(殺人)・201条(予備)・202条(自殺関与及び同意殺人)・203条(未遂罪)

保護法益個人の生命

構成要件
「人」の概念
身体を有する自然人を指し、将来成長の希望のない嬰児や、自然的死期の迫っている高齢者も含む。
「人」の始期
胎児の身体の一部が母体から露出した時(一部露出説・判例)。
「人」の終期
呼吸・脈拍の不可逆的停止及び瞳孔散大の三徴候を基礎として総合的に判定する(三徴候説・従来の通説)。
重要規範
自殺関与・同意殺人の処罰根拠
自殺自体は違法だが可罰的違法性を欠く。他人の関与・同意殺害行為は刑法総則の共犯規定と異なる独立の犯罪類型として処罰される。
実行の着手時期
独立の犯罪類型と解する以上、教唆・幇助行為等の関与行為が開始された時点。
普通殺人罪との区別規範
死の決意・承諾について真意に沿わない重大な瑕疵がある場合は、被害者を道具として利用した間接正犯として普通殺人罪(199条)が成立する。
主要論点・判例
  • 最判S33.11.21追死を装い青酸カリを与えて死亡させた事例。重大な瑕疵があり普通殺人罪成立。
  • 福岡高判H1.3.24嘘をつき農薬を嚥下させた事例。欺罔により重大な瑕疵が生じ普通殺人罪成立。
  • 最決H16.1.20暴行・脅迫で車ごと海中に転落自殺を強要した事例。普通殺人未遂罪成立。
Q1普通殺人罪(199条)

事案Xが追死してくれると偽り青酸ソーダをAに与えて自殺させた。

理由死の決意に真意に沿わない重大な瑕疵→被害者を道具とする間接正犯 最判S33.11.21

Q2業務上過失致死罪(211条前段)

事案水俣病。母Bが妊娠中に汚染魚を摂取、子Aが障害を負い出生後十数年後に死亡。

理由加害行為時に胎児でも、人の始期以降に死亡結果が発生すれば因果関係あり

Q3保護責任者遺棄罪(218条)

事案車で轢いた後、医者を呼ぶと騙し雪の車道上にAを放置して逃走。

理由先行行為で排他的支配を設定、欺いて危険な場所に置き去りは不作為の遺棄 最判S34.7.24

第2講

身体に対する罪

Q4〜Q52問
条文・保護法益

204条(傷害)・205条(傷害致死)・206条(現場助勢)・207条(同時傷害の特例)・208条(暴行)・208条の2(凶器準備集合・結集)・209条(過失傷害)・210条(過失致死)・211条(業務上過失致死傷等・重過失致死傷)

保護法益人の身体の完全性及び生理的機能

構成要件
傷害の意義
人の生理的機能を害すること(生理的機能侵害説)。めまい・PTSD・性病感染・睡眠障害等は含むが、単に毛髪を切る行為は含まない。
暴行の意義
人の身体に向けられた不法な有形力の行使。
業務上過失の「業務」
社会生活上の地位に基づき反復・継続して行われる事務で、法益侵害の危険を伴うか危険防止を義務内容とするもの。適法性は不要。
重要規範
傷害罪の故意
有形的方法(暴行)による場合は暴行の故意があれば足り(結果的加重犯説)、無形的方法による場合は傷害の故意を要する(折衷説・判例)。
同時傷害の特例(207条)
二人以上が意思の連絡なく同一人に暴行を加え傷害結果を生じさせ誰の暴行か不明な場合、共同実行でなくとも共犯の例とする。適用範囲は傷害罪・傷害致死罪に限定。
主要論点・判例
  • 最決S39.1.28四畳半で日本刀の抜き身を振り回す行為は暴行にあたる(誤って刺殺なら傷害致死罪)。
  • 最判H17.3.29ラジオ・アラームを大音量で流し続け慢性頭痛等を生じさせた事例。無形的方法による傷害罪成立。
Q4傷害罪(204条)

事案ラジオ・アラームを1年半大音量で鳴らし続けAに慢性頭痛症・睡眠障害を生じさせた。

理由無形的方法でも生理的機能侵害は傷害。無形的方法は傷害の故意を要する 最判H17.3.29

Q5傷害致死罪(205条)

事案Aを脅す目的で日本刀の抜き身を振っていたが誤って刺し死亡させた。

理由刃物を振り回す行為は暴行。暴行の故意で傷害結果→死亡は結果的加重犯 最決S39.1.28

第3講

自由及び人格に対する罪(逮捕・監禁罪、略取・誘拐罪)

Q6〜Q105問
条文・保護法益

220条(逮捕・監禁)・221条(逮捕等致死傷)・224条(未成年者略取・誘拐)・225条(営利目的等略取・誘拐)・225条の2(身の代金目的略取等)・226条の2(人身売買)・228条(未遂)・228条の2(解放減軽)・228条の3(予備)・229条(親告罪)

保護法益身体活動の自由(逮捕・監禁)、被拐取者の自由及び監護権者の監護権(略取・誘拐)

構成要件
逮捕・監禁の意義
逮捕は直接的な身体拘束、監禁は間接的な身体拘束(一定区域からの脱出を不可能・著しく困難にすること)。
監禁罪の客体(可能的自由説)
自然的・潜在的意味において自力で移動・行動できる可能性(可能的自由)を有する者であれば客体となる。
重要規範
行動意思・能力の要否
被害者が被害意識や行動意思を有していることは不要。自然的・事実的歩行能力を有する幼児でも監禁罪の客体となる。
監禁と死傷結果の因果関係
道路上で停車中の車のトランク内に監禁した行為と、後方車両の甚だしい過失による追突事故による死亡結果との間の因果関係は肯定される。 最決H18.3.27
親権者による連れ去りと違法性
親権者でも平穏に生活する子を有形力を用いて粗暴・強引に連れ去る行為は未成年者略取罪の構成要件に該当し、監護養育上の特段の必要性がない限り違法性は阻却されない。 最決H17.12.6
主要論点・判例
  • 広島高判S51.9.21強姦目的を秘した者に騙されて同乗し、監禁されている事実を認識していない場合でも監禁罪成立。
  • 最決S62.3.24相互銀行代表取締役社長を略取し身代金を要求。安否を憂慮する者には親族等のほか親身な特別な関係にある者も含む。
Q6監禁罪(220条)

事案熟睡しているAを寝室の外から施錠して閉じ込めた。

理由保護法益は客観的移動の可能性(可能的自由説)。移動意思・認識は不要

Q7監禁罪(220条)

事案偽計を用いタクシーに乗せ、だまされたのに気づかない間も走行させた。

理由騙されている事実を認識していない時間帯も監禁罪は継続して成立 広島高判S51.9.21

Q8未成年者誘拐罪(224条)

事案未成年者Bを誘惑し承諾を得て、Aの意思に反して生活環境から離脱させた。

理由保護法益は監護権者の監護権も含む。本人の承諾があっても監護者の意思に反すれば誘拐

Q9未成年者略取罪(224条)

事案別居中の夫Xが、隙をついて実子Bを無理やり連れ去った。

理由親権者でも粗暴・強引な連れ去りは構成要件該当。特段の必要性なければ違法性阻却なし 最決H17.12.6

Q10身の代金目的略取罪(225条の2第1項)

事案佐賀相互銀行社長を略取・監禁し専務らに身代金を要求(未遂)。深い人間関係あり。

理由「安否を憂慮する者」は親族等のほか社会通念上親身になって憂慮する特別な関係にある者を含む 最決S62.3.24

第4講

性的自由及び住居等を侵す罪

Q11〜Q188問訂正あり
条文・保護法益

130条(住居侵入・不退去)・132条(未遂)・176条(不同意わいせつ)・177条(不同意性交等)・179条(監護者わいせつ・性交等)・181条(不同意わいせつ等致死傷)・182条(16歳未満への面会要求等)

保護法益個人の性的自由(176条以下)、住居に誰を立ち入らせ誰の滞在を許すかの自由(新住居権説:130条)

構成要件
「侵入」の意義
管理権者(住居権者)の意思(または推定的意思)に反する立ち入り。
不同意わいせつ罪の態様
暴行・脅迫、心身障害、アルコール・薬物摂取、睡眠等非明瞭、同意形成のいとまなし、恐怖・驚愕、虐待による心理的反応、社会的・経済的地位の影響力等(176条1項1〜8号)、誤信・人違い(同2項)、16歳未満(同3項)。
重要規範
わいせつの意図の要否
不同意わいせつ罪の成立に「わいせつの意図」は不要。客観的に性的な意味の強いものなら当然該当、弱いものは主観的意図を考慮。 最大判H29.11.29
管理権者の意思判定
一般客の来集する店舗・郵便局・ATM出張所であっても、犯罪目的や管理権者の意思に反する不法な目的での立ち入りは「侵入」にあたる。 最判S58.4.8・最決H19.7.2
共同居住者の承諾
在宅する共同居住者の適法な承諾に基づく立ち入りは「侵入」にあたらない(夫不在時の妻の承諾等)。
錯誤に基づく承諾
行為者の真の目的(強盗等)を知っていれば居住者が同意しなかったといえる場合、外見上の承諾は無効で住居侵入罪が成立する。 最大判S24.7.22
主要論点・判例
  • 最決H19.7.2営業中の無人ATM出張所に盗撮目的で立ち入る行為は建造物侵入罪を構成する。
  • 最判S58.4.8郵便局内にビラ貼り目的で多数で土足侵入した行為は管理権者の意思に反し侵入となる。
Q11不同意性交等罪(177条2項)

事案半睡半覚のA女が夫と勘違いしているのを利用し承諾を得て性交。

理由人違いに乗じた性交は同意のない性交等と同視され構成要件該当

Q12不同意わいせつ罪(176条2項)

事案モデル撮影には全裸が必要と誤信させ全裸撮影した。

理由わいせつでないとの誤信を利用したわいせつ行為

Q13建造物侵入罪(130条前段)

事案春闘のビラ貼り目的で郵便局に立ち入り、事前拒否の明示なし。

理由容認していないと合理的に判断される目的での立入りは「侵入」 最判S58.4.8参照

Q14住居侵入罪(130条前段)

事案強盗目的を秘して「こんばんは」と挨拶し「おはいりなさい」の返答を得て立入り。

理由真の目的を知れば同意しなかった場合、外見上の承諾は錯誤に基づき無効 最大判S24.7.22参照

Q15建造物侵入罪(130条前段)

事案銀行支店出張所に暗証番号盗撮目的で営業中に立ち入った。

理由一般客立入りが予定された店舗でも不法な目的での立入りは「侵入」 最決H19.7.2参照

Q16住居侵入罪(130条前段)

事案父親Bに拒否されたが、娘Aの手引きで勝手口から立ち入った。

理由主たる住居権者が明示的に拒否している場合、その意思に反する立入りは「侵入」

Q17住居侵入罪は成立しない

事案人妻Aの承諾を得て夫B不在中に姦通目的で立ち入った。

理由在宅する共同居住者(妻)の適法な承諾に基づく立入りは「侵入」にあたらない

Q18建造物侵入罪(130条前段)✓ 誤字訂正済み

事案分譲マンション共用部分(階段・廊下)にビラ配布目的で立ち入った。管理組合が配布禁止の貼り紙を掲示していた。

理由管理組合が明確に禁じた目的での立入りは「侵入」にあたる

原本の誤字を訂正済み。

第5講

名誉及び信用に対する罪

Q19〜Q202問
条文・保護法益

230条(名誉毀損)・230条の2(公共の利害に関する特例)・231条(侮辱)・232条(親告罪)

保護法益人の外部的名誉(社会的評価)

構成要件
公然と・事実の摘示
「公然と」とは不特定または多数人が認識し得る状態。「事実の摘示」の有無により名誉毀損罪と侮辱罪が区別される。
重要規範
不処罰の要件(230条の2第1項)
①公共の利害に関する事実にかかり、②専ら公益を図る目的であり、③事実の真実性が証明された場合は不処罰となる。
真実性の錯誤と故意阻却
真実性の証明に失敗した場合でも、行為者が真実と誤信し確実な資料・根拠に照らして相当の理由があるときは、犯罪の故意が阻却され名誉毀損罪は成立しない。 最大判S44.6.25 夕刊和歌山時事事件
私人の私生活と公共性
私人の私生活上の行状でも、その社会的活動の性質・社会に及ぼす影響力の程度によっては公共の利害に関する事実にあたり得る。 最判S56.4.16 月刊ペン事件
主要論点・判例
  • 死者の名誉毀損(230条2項)虚偽の事実を摘示した場合に限り処罰される。
Q19名誉毀損罪(230条1項)

事案村会議員や村人らがいる前で「Aは放火犯だ」と言った。

理由特定少数への発言でも不特定多数へ波及する伝播可能性があれば「公然と」の要件を満たす

Q20名誉毀損罪は成立しない(不可罰)

事案新聞記者が取材による確実な資料で真実と確信したが、裁判で真実性の証明に失敗した。

理由公共性・公益目的を満たし、確実な資料に照らし真実と誤信したことに相当の理由があれば故意阻却 最大判S44.6.25参照

第6講

業務に対する罪及び秘密を侵す罪

Q211問
条文・保護法益

133条(信書開封)・134条(秘密漏示)・233条(信用毀損・業務妨害)・234条(威力業務妨害)・234条の2(電子計算機損壊等業務妨害)

保護法益業務の自由(233条・234条)、個人の秘密(133条・134条)、経済的側面における人の評価(233条信用)

構成要件
「業務」の概念
職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務または事業。
偽計と威力の区別
偽計は欺罔・錯誤利用または威力以外の不正な手段。威力は人の意思を制圧するに足りる勢力。
重要規範
「信用」の意義
233条の「信用」は支払能力・支払意思に対する社会的信頼に限定されず、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれる。 最判H15.3.11 ローソン洗剤混入虚偽申告事件
業務妨害罪の成立
実際の妨害結果の発生は不要であり、業務を妨害するおそれを生じさせれば足る(抽象的危険犯)。
主要論点・判例
  • 東京高判H21.3.12インターネット掲示板に無差別殺人の虚偽予告を書き込み警察官を出動させた行為は偽計業務妨害罪を構成する。
Q21偽計業務妨害罪(233条後段)

事案掲示板に無差別殺人の虚偽予告を書き込み、警察が警戒出動した。

理由虚偽情報の書き込みは「偽計」にあたり、業務を妨害するおそれを生じさせれば成立 東京高判H21.3.12参照

第7講

窃盗の罪・不動産侵奪の罪

Q22〜Q276問訂正あり
条文・保護法益

235条(窃盗)・235条の2(不動産侵奪)・242条(他人の占有に属する自己の物)・244条(親族間特例)・245条(電気)

保護法益占有説(所持そのものの保護)

構成要件
財物の概念
原則として有体物(電気は245条で看做す)、有価値性(主観的・消極的価値を含む)、可動性。
占有の要素
事実的支配(客観的)と占有意思(主観的)の相関関係。
重要規範
不法領得の意思の内容
①権利者を排除して自己の所有物として振る舞う意思(権利者排除意思)と、②物の経済的用法に従い利用・処分する意思(利用処分意思)を要する。 大判T4.5.21
短時間の使用窃盗
自動車を無断で約4時間乗り回す行為等は可罰性を有し、返還意思があっても権利者排除意思が認められ窃盗罪となる。 最決S55.10.30
置き忘れた財物の占有
場所的離隔・時間的経過・物件の性質等を総合考慮し、被害者の事実的支配が及んでいるとみられる場合は占有を認め窃盗罪となる。 最決H16.8.25
死者の占有
殺害直後に死体から財物を領得した場合、殺害行為と時間的・場所的に近接している限り生前の占有が継続して保護され窃盗罪となる。 最判S41.4.8
親族相盗例(244条)の適用範囲
親族関係は、窃盗犯人と占有者および所有者の双方との間に存在することを要する。 最判H6.7.19
主要論点・判例
  • 最決H1.7.7自動車金融で所有権を主張して無断で車を引き揚げる行為は占有を侵害する窃盗罪(242条・235条)となる。
  • 最決S42.11.2無断使用していた空地にブロック塀を設置して定着させた場合、占有の質的変化が生じ不動産侵奪罪(235条の2)が成立する。
Q22占有離脱物横領罪(254条)

事案スーパー6階に財布を置き忘れ、約10分後に気づいた間に持ち去られた。

理由大きく離隔し約10分経過した以上、事実的支配は失われており占有は離脱する

Q23窃盗罪(235条)

事案公園のベンチに置き忘れ、約27m・2分程度で持ち去られた。

理由時間的・場所的離隔が僅少で直ちに回収し得る状況は占有が継続 最決H16.8.25参照

Q24殺人罪(199条)と窃盗罪(235条)の併合罪

事案Aを殺害した直後、身につけていた腕時計を奪う意思を生じ領得した。

理由殺害行為と時間的・場所的に近接した財物領得行為は生前の占有を侵害 最判S41.4.8参照

Q25窃盗罪(235条)

事案エンジンキー付き自動車を、返す意思で無断で乗り回した(約4時間)。

理由高級車を数時間無断で乗り回す行為は不法領得の意思(権利者排除意思)が認められる 最決S55.10.30参照

Q26窃盗罪(235条)は成立しない(不法領得の意思を欠く)✓ 訂正済み

事案自首・服役目的で自動車内からCDを持ち出し、派出所に出頭・提出した。

理由不法領得の意思には権利者排除意思に加え経済的用法に従い利用・処分する意思(利用処分意思)が必要であるところ、自首・服役目的で持ち出し提出するのみでCDを経済的用法(音楽鑑賞等)に従って利用・処分する意思がない場合は利用処分意思を欠き、不法領得の意思は認められない 最決H16.11.30参照(支払督促正本を廃棄するのみで利用処分意思なしとした事案)

基本講座・外部判例と照合し、原本の誤りを訂正済み(詳細は末尾の訂正履歴を参照)。

Q27不動産侵奪罪(235条の2)

事案東京都所有の公園の空き地に無許可で簡易建物を建築、約9ヶ月間維持。

理由簡易建物でも長期にわたり定着・使用すれば占有を排除する「侵奪」にあたる

第8講

強盗の罪

Q28〜Q3912問
条文・保護法益

236条(1項・2項強盗)・237条(予備)・239条(昏酔強盗)

保護法益他人の財物・財産上の利益、及び生命・身体等の人格的利益

構成要件
暴行・脅迫の強度
相手方の反抗を抑圧する(反抗不能にする)程度。一般人を基準に客観的に判断。
2項強盗の「財産上不法の利益」
債務の支払を不法に免れること等。
重要規範
反抗抑圧の客観的基準
一般人を基準として、諸般の事情(態様・手段・凶器・年齢・性別・時刻・場所)を総合考慮して客観的に決定される。 最判S24.2.8
ひったくりと強盗
自動車の窓からバッグを奪い、手放さない被害者を車で引きずり転倒・衝突させた場合、反抗抑圧に足る暴行として強盗(強盗致傷)が成立する。 最決S45.12.22
反抗抑圧後の財物奪取
先行する暴行・脅迫で反抗抑圧状態になった後、新たに財物奪取の意思を生じた場合、財物奪取に向けられた新たな暴行・脅迫が必要。
2項強盗における利益の限界
経営上の権利のような抽象的利益は殺害行為自体によって移転するものではなく2項強盗の客体とならない。一方、債権者殺害により当分の間権利行使を不能にした場合は2項強盗殺人罪が成立する。 神戸地判H17.4.26・最判S32.9.13
主要論点・判例
  • 最決S61.11.18詐欺で覚せい剤を入手後、代金支払いを免れるため拳銃で狙撃した事例。包括して2項強盗殺人未遂罪が成立する。
Q28強盗致傷罪(240条前段)

事案バッグを離さないAを車で引きずり転倒・衝突させ傷害を負わせた。

理由車で引きずり転倒・衝突させる行為は反抗抑圧に足る暴行 最決S45.12.22参照

Q29強盗罪(236条1項)

事案深夜の路上で口鼻を塞いで転倒させハンドバッグを奪った。

理由口鼻を塞いで転倒させる行為は一般人基準で反抗を抑圧するに足る暴行

Q30強盗罪の共同正犯(60条・236条1項)

事案共謀に基づき役割分担して実行。助けに赴くのを装い協力し財物を奪った。

理由共謀に基づき役割分担した場合、自己の犯罪として共謀・利用した者は共同正犯

Q31傷害罪(204条)と窃盗罪(235条)の併合罪

事案恨みから暴行し意識を失わせた後、財布を見つけ奪う意思を生じた。

理由先行暴行時に財物奪取意思がなく、新たな暴行・脅迫がなければ強盗罪不成立

Q32傷害罪(204条)および強盗罪(236条1項)の共同正犯(併合罪)

事案第1暴行後に財物奪取を共謀し、第2暴行で現金を奪取した。

理由反抗抑圧状態を利用・維持するための新たな暴行を加えれば強盗罪が成立

Q33強盗の共同正犯は成立せず、不同意性交等罪と窃盗罪の共同正犯(併合罪)

事案失神していると誤信して財物を奪取した(実際は失神せず抵抗できない状態)。

理由失神と誤信して財物奪取した場合、強盗の故意(暴行・脅迫の主観的認識)を欠く

Q341項強盗罪(236条1項)

事案代金未払いの覚せい剤を鉄パイプ殴打で持ち逃げした。

理由代金未払いで返還を求められている段階では相手方の事実上の支配が及んでおり、これを排する暴行は財物の強取

Q35強盗殺人未遂罪は成立せず、殺人未遂罪(及び傷害罪)

事案両親を殺害し相続を開始させ財産上不法の利益を得ようとした。

理由相続開始という抽象的な利益は2項強盗の「財産上の利益」にあたらない 神戸地判H17.4.26参照

Q362項強盗殺人未遂罪(240条・236条2項)

事案借用証なし、債務の履行を逃れるため殺害未遂(即死と誤信し立ち去った)。

理由債務の存在証明者を消す目的で債権者を殺害未遂し当分の間権利行使を不能にさせた 最判S32.9.13参照

Q372項強盗殺人罪(240条・236条2項)

事案架空名義装い返済督促を免れるため殺害した。

理由債権者殺害で当分の間返済督促・権利行使を不能にさせ不法利益を得た

Q38窃盗罪(235条)と暴行罪(208条)の併合罪

事案盗んだ自転車を10日後に取り返されそうになり暴行で防いだ。

理由窃盗完了から相当時間経過し安全圏に脱出後は「窃盗の機会」ではない

Q39(1)成立しない (2)成立する (3)先行の領得行為は後行の2項強盗殺人未遂罪に吸収され一罪

事案(1)1項強盗の共同正犯 (2)2項強盗殺人未遂の共同正犯 (3)罪数関係

理由財物の領得は騙取により既遂、後行の狙撃は代金支払義務を免れる目的の別個の行為 最決S61.11.18参照

第9講

事後強盗の罪

Q40〜Q478問訂正あり
条文・保護法益

238条(事後強盗)

保護法益財産権及び個人の身体・自由。真正身分犯(主体は「窃盗」)

構成要件
主体
窃盗(未遂含む)。
機会
窃盗の機会。
目的
財物を取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅する目的(限定列挙)。
重要規範
「窃盗の機会」の判断基準
時間的・場所的近接性、被害者等の追跡可能性、犯人が追跡の支配領域から脱出して安全圏に至ったか否かにより、被害者等から容易に発見されて財物奪還・逮捕され得る状況が継続していたか否かで判断する。 最決H14.2.14・最判H16.12.10
既遂・未遂の決定基準
先行する窃盗行為が既遂か未遂かによって決定される。 最判S24.7.9
承継的共犯と身分(65条1項)
窃盗犯人が逮捕されそうになり暴行を加える際、事情を知って加功した共犯者(身分なき者)にも65条1項により事後強盗罪(致傷罪)の共同正犯が成立する。 大阪高判S62.7.17
主要論点・判例
  • 最決H14.2.14窃盗後天井裏に約3時間潜伏、駆けつけた警察官にナイフで暴行を加えた事例。逮捕・奪還され得る状況が継続しており「窃盗の機会」内である。
  • 最判H16.12.10窃盗後一度公園へ離脱、再度盗み目的で引き返して発見され脅迫した事例。「窃盗の機会」は途切れており事後強盗罪は成立しない。
Q40事後強盗致傷罪(238条・240条前段)

事案犯行後30分・1km離れた地点で被害者と行き会い、財物の奪還阻止目的で暴行。

理由容易に発見・奪還され得る状況が継続していれば時間・距離が離れても「窃盗の機会」にあたる

Q41事後強盗致傷罪(238条・240条前段)

事案天井裏に潜伏中、駆けつけた警察官に逮捕を免れるためナイフで切りつけた。

理由窃盗現場の天井裏に潜伏し続け発見された場合の逮捕免脱暴行は「窃盗の機会」 最決H14.2.14参照

Q42事後強盗罪は成立せず、住居侵入・窃盗罪および住居侵入未遂・脅迫罪の併合罪✓ 訂正済み

事案窃取後、自転車で約1km離れた公園に移動後、再度盗みに戻り家人に発見され、ナイフで脅して逃走。

理由窃盗後に現場を離れ安全圏に至った場合、容易に発見・逮捕され得る状況は途絶し「窃盗の機会」は終了する 最判H16.12.10参照

基本講座・外部判例と照合し、原本の誤りを訂正済み(詳細は末尾の訂正履歴を参照)。

Q43事後強盗殺人罪は成立せず、住居侵入・窃盗罪および住居侵入・殺人罪(199条)の併合罪

事案盗品を自宅に安全に搬入した後、再び現場に戻り目撃者を殺害した。

理由盗品を自宅内に完全に搬入して安全圏に入った時点で「窃盗の機会」は途切れて消滅する

Q44Xに事後強盗未遂罪(238条・243条)が成立。Yは窃盗未遂罪にとどまる

事案共謀した車上荒らしでAに呼び止められ、Yは逃走、Xのみ暴行を加えて逃走。

理由逮捕免脱目的の暴行について共謀を有しない共犯者(逃走したY)は事後強盗罪の責任を負わない

Q45XおよびYに事後強盗未遂罪(238条・243条・60条)の共同正犯

事案友人Yが事情を察知した上でXに加勢し共に暴行、Aが転倒した隙に逃走。

理由事後強盗罪は真正身分犯だが、65条1項により身分なき者(途中で加功したY)にも共同正犯が成立 大阪高判S62.7.17参照

Q46XおよびYに事後強盗致傷罪(238条・240条前段・60条)の共同正犯

事案Yも加勢し共に暴行、傷害結果がどちらの暴行によるか不明であった。

理由共同して暴行を加えた以上、いずれの暴行で傷害が生じたか不明でも共同正犯の原則に基づき双方が責任を負う

Q47強盗予備罪(237条)

事案事務所荒らしの七つ道具、模造拳銃、登山ナイフを携帯してビル街を徘徊、職務質問で逮捕。

理由事後強盗(逮捕免脱等)の目的で凶器を携帯して徘徊する行為は強盗の用に供する目的での準備行為

第10講

強盗致死傷罪・強盗不同意性交等罪

Q48〜Q5912問
条文・保護法益

240条(強盗致死傷)・241条(強盗・不同意性交等及び同致死)

保護法益生命・身体・財産権・性的自由の重畳的保護。真正身分犯(「強盗が」)

構成要件
強盗致死傷(240条)
強盗(未遂含む)が人を負傷(強盗傷人・致傷)または死亡(強盗殺人・致死)させたこと。
強盗不同意性交等(241条)
強盗が不同意性交等をし、または不同意性交等犯人が強盗をしたこと。
重要規範
殺意ある場合と240条
240条は結果的加重犯のみならず、殺意(故意)をもって人を死亡させた場合(強盗殺人罪)も含む(判例・通説)。
強盗の機会
死傷・性交等の結果は強盗の実行行為自体から生じた場合のほか、強盗の機会に行われた密接に関連する行為・通常随伴する行為から生じた場合も含む。 最決H20.1.22等
「傷害」の程度
治療を要しないごく微小な創傷(出血も痛感もない打撲等)は240条の「傷害」に当たらない(過失傷害・暴行にとどまる)。
主要論点・判例
  • 強盗致死傷と観念的競合殺意をもって性交し死亡させた場合、241条3項(強盗不同意性交等致死)と殺人罪(199条)は観念的競合となる。
Q48強盗殺人罪(240条後段)

事案金品強奪のため殺意をもって腹部を包丁で刺し死亡させ金品を奪った。

理由240条は結果的加重犯のみならず、故意をもって人を死亡させた場合も含む

Q49強盗致死罪(240条後段)

事案財物強取の目的で脅したが、追跡してきた息子をナイフで振り払い死亡させた。

理由強盗未遂現場直近における追跡者への逮捕免脱・逃走目的の加害行為は「強盗の機会」

Q50強盗殺人罪(240条後段)

事案金員奪取失敗後、追いかけてきた2名を日本刀で突き刺し死亡させた。

理由強盗未遂直後の現場入口における追跡者への刺殺行為は「強盗の機会」に行われた致死行為

Q51強盗罪(または未遂)と公務執行妨害罪・傷害罪の併合罪となり強盗致傷罪は不成立

事案前夜の強盗の盗品を翌晩別の場所で陸揚げする際、発見され逮捕免脱目的で負傷させた。

理由強盗犯行から時間的・場所的に著しく離脱した後の行為は「強盗の機会」とはいえない

Q52Aに対する強盗殺人罪(240条後段)と、Bに対する殺人罪(199条)の併合罪

事案強盗完了後、犯行を目撃したBを5時間後に誘い出し殺害した。

理由強盗犯行完了から相当時間経過後に罪跡隠滅目的で別途決意された殺害は「強盗の機会」の行為とはいえない

Q53強盗未遂罪(236条1項・243条)にとどまる

事案襟首を捕まえ引き倒す等の暴行を加えたが、何も取れないまま逃走。打撲傷のみ(出血・疼痛なし)。

理由治療を要さず出血も疼痛もない極めて軽微な打撲傷は240条の「傷害」に当たらない

Q54強盗致傷罪(240条前段)

事案出刃包丁を突きつけ脅迫したところ、Aが逃げようとして転倒し負傷した。

理由脅迫から逃走しようとして被害者が転倒・負傷した場合、強盗行為と傷害結果との間に相当因果関係

Q55強盗致傷罪(240条前段)

事案手錠で固定し「倒れろ」と命じ転倒させ傷害を負わせ、鞄を強取した。

理由強盗の暴行・脅迫行為そのもの(手錠固定・転倒命令)によって傷害を生じさせた場合も成立

Q56強盗致傷罪(240条前段)

事案家中を物色中に腹を立て戸棚のガラスを壊し、破片で家人が負傷した。

理由財物物色に付随する破壊行為から生じた傷害も、強盗と密接に関連する行為(強盗の機会)から生じたもの

Q57不同意性交等未遂罪と恐喝罪(249条1項)の併合罪

事案強姦しようとしたが抵抗にあい目的を遂げず、畏怖したAが財布を差し出した。

理由反抗抑圧による強取ではなく畏怖に基づく任意交付にとどまる場合、強盗罪(強取)にはあたらない

Q58強盗・不同意性交等致傷罪(241条・181条)

事案現金強奪と強姦を企て、暴行・脅迫で反抗を抑圧しわいせつ行為後に強姦、傷害を負わせ現金を強取。

理由強盗の機会に不同意性交等を行い傷害を生じさせた場合に成立

Q59強盗・不同意性交等致死罪(241条3項)

事案現金所持なしで落胆し自暴自棄になり姦淫して殺害しようとし、窒息死させた。

理由強盗(未遂含む)の機会に自暴自棄となって不同意性交等を行い致死結果を生じさせた場合に成立

第11講

詐欺の罪

Q60〜Q7718問
条文・保護法益

246条(1項・2項詐欺)・246条の2(電子計算機使用詐欺)

保護法益個別財産および取引の安全・信頼

構成要件
構造
①欺罔行為→②相手方の錯誤→③処分行為(交付)→④財物・利益の移転(因果関係の連鎖)。
処分行為の要件
交付意思(財物)または処分意思(利益)。
重要規範
欺罔行為の対象
相手方が真実を知っていれば処分行為を行わなかったであろう重要な事実(受領権限、意図、支払意思・能力等)。
無銭飲食・無銭宿泊
最初から支払意思・能力がないのに注文・宿泊する行為は1項詐欺罪。当初支払意思があり後から不払い意思を生じて逃走した場合は原則不可罰(嘘を用いて逃げた場合は2項詐欺罪)。
口座開設・カード不法利用
譲渡目的を秘して口座開設・通帳等を取得する行為は銀行に対する1項詐欺罪。自己名義カードの無資力使用・他名義カードの冒用使用も加盟店に対する1項詐欺罪。
誤振込みと告知義務
誤振込みがあることを知りながら、窓口で係員に不告知のまま口座から現金を引き出す行為は、銀行窓口係員に対する1項詐欺罪となる。 最判H15.3.12
主要論点・判例
  • 過剰釣銭の受領交付時に気づきながら受領・黙秘離脱は1項詐欺罪。受領後に気づいて持ち去った場合は占有離脱物横領罪(254条)。
Q60詐欺罪(246条1項)

事案5千円を1万円と間違えられ8000円の釣りを受け取った。気づいていた。

理由交付時に過剰釣銭の錯誤に気づいた場合、告知すべき義務があり黙秘して受領する行為は欺罔にあたる

Q61詐欺罪(246条1項)

事案代金を支払うつもりがないのに牛丼を注文し提供させた。

理由最初から支払意思・能力がないのに注文する行為は支払意思を偽る欺罔行為

Q62窃盗罪(235条)

事案洋服屋で試着中、他の客が呼んでいると嘘をつき着たまま逃走した。

理由詐欺罪の成立には処分行為(占有移転意思)を要する。嘘で隙を作り持ち去る行為は占有侵奪

Q63罪責は成立しない(不可罰)

事案飲食後、他の客が呼んでいると嘘をつき隙に代金を払わず逃走した。

理由2項詐欺罪の成立には処分行為(債務免除等の意思表示)を要する。単に逃走するだけでは処分行為を欠く

Q64詐欺罪(246条1項)

事案Aの持つ古本に1万円札が挟まっているのを知りながら黙って貰い受けた。

理由財物(1万円札)の存在を知りながら黙秘し無価値な古本として交付させる行為は取引上の重要事実の欺罔

Q652項詐欺罪(246条2項)

事案飲食後、別の店員に払ったと嘘をつき支払いを免れた。

理由「支払済み」との虚言で請求受領を断念させる処分行為を行わせ不法利益(債務履行免除)を得た

Q66窃盗罪(235条)

事案玄関前に風呂敷包みに現金を置かせ、トイレに行った隙に持ち去った。

理由交付・占有移転行為がない場合、詐欺罪は不成立であり隙を見て持ち去る行為は窃盗罪

Q67詐欺罪(246条1項)

事案市販2000円のあんま器を特殊治療器価格1万円から2000円に値引きすると偽り販売した。

理由商品の性質・価値・入手難易度という重要な事実を偽って対価を交付させる行為

Q68詐欺罪(246条1項)

事案16歳のXが18歳であると偽り、成人雑誌を購入した。

理由年齢等の契約・販売可否に関わる重要事実を偽って財物を交付させる行為

Q69詐欺罪(246条1項)

事案譲渡目的を秘して銀行窓口で自己名義の口座開設を申し込み、通帳等の交付を受けた。

理由口座・カードの譲渡目的を秘して口座開設を申し込む行為は銀行の口座交付に関する重要事実の欺罔

Q70詐欺罪(246条1項)

事案不法入国させる意図を隠し航空券を呈示し搭乗券の交付を受けた。

理由自己搭乗意思を偽り他人の不法乗車目的を秘して搭乗券の交付を受ける行為は発行判断に関する重要事実の欺罔

Q71詐欺罪(246条1項)

事案未処理の汚泥を正規処理した旨の処理券を作成提出し工事代金の支払いを受けた。

理由契約上の支払金額が減額されなくとも、支払決定・時期に影響を及ぼす重要事実を偽って代金交付を受ければ成立

Q72詐欺罪(246条1項)

事案営農意思がないのにあると偽り国有地の払下げを受けた。

理由払下げ資格の要件である重要事実(営農意思)を偽って処分を行わせる行為

Q73詐欺罪(246条1項、訴訟詐欺)

事案契約書等を偽造し虚偽の債権を主張して訴訟提起、勝訴判決を得て強制執行により取得。

理由裁判所を欺いて不当な勝訴判決を得て強制執行により財物を取得する行為は訴訟詐欺として1項詐欺罪

Q74詐欺罪(246条1項)

事案預金残高なく支払えないと知りながら自己名義クレジットカードを提示し商品を購入した。

理由無資力で支払意思・能力がないのに自己名義カードを使用する行為は重要事実の欺罔

Q75詐欺罪(246条1項)

事案友人Yから借りたクレジットカードを使用し商品を購入した。

理由会員本人の承諾があっても他人のクレジットカードを冒用して使用する行為は加盟店に対する欺罔

Q762項詐欺罪(246条2項)

事案有効な切符と定期券を乗り継ぎ使用し不正乗車区間の運賃を免れた。

理由有効な乗車券を持たずに乗車し駅員を欺いて改札を通過する行為は不法な財産上の利益の取得

Q77詐欺罪(246条1項)

事案麻薬を売るつもりがないのに「売る」と偽り代金を受け取った。

理由不法原因給付を伴う取引であっても、売却意思がないのに偽って代金を騙し取る行為は1項詐欺罪

第12講

恐喝の罪

Q78〜Q792問
条文・保護法益

249条(1項・2項恐喝)

保護法益個人の財産権および意思決定・行動の自由

構成要件
構造
恐喝行為(反抗抑圧に至らない畏怖を生じさせる暴行・脅迫)→畏怖→処分行為(交付)→財物・利益の移転。
重要規範
権利行使と恐喝
正当な権利行使であっても、その手段・態様が社会通念上受忍すべき限度を超える暴行・脅迫を用いた場合は恐喝罪が成立する。 最判R5.9.11等
主要論点・判例
  • 暴行・脅迫の強度強盗(反抗抑圧)と区別され、相手方を畏怖させる程度で足りる。
Q78恐喝罪(249条1項)

事案貸した時計の返却を半年以上拒まれ、「痛い目に遭いたいか」と脅して返還を求めた。

理由返還請求権に基づく権利行使でも、手段・態様が社会通念上の受忍限度を超えるときは恐喝罪が成立する

Q79恐喝罪(249条1項)

事案飲食代請求に支払猶予を求められ激怒、平手打ちし「外国に売り飛ばすぞ」と脅して受領した。

理由債権回収催促であっても社会通念上の受忍限度を超えた不法な手段で金員を交付させれば成立

第13講

横領の罪

Q80〜Q10728問
条文・保護法益

252条(横領)・253条(業務上横領)・254条(遺失物等横領)

保護法益委託信任関係に基づく占有および所有権

構成要件
横領の意義
自己の占有する他人の物を、不法領得の意思(所有者でなければできないような処分をする意思)を発現して領得すること。
重要規範
横領罪の「占有」
事実的支配のみならず、委託信任関係に基づく法律的支配(登記名義、預金名義、保管権限)を含む。
店舗・会社の従業員の占有
包括的な管理権限を有しない一般従業員は物品の占有を有さず(事業主にあり)、領得すれば窃盗罪となる。包括的権限を有していれば横領罪(253条)。
封緘物の占有帰属
封緘物(手紙・小切手袋等)の全体の占有は受託者にあるが、内容物の占有は委託者に留保されており、内容物を奪取すれば窃盗罪となる。 大判M44.12.15
二重譲渡と横領
不動産を第1買主に売却(代金受領)後、未登記の段階で第2買主に売却・登記完了させた場合、第1買主との委託信任関係に背く横領罪(252条)が成立する。
不可罰的事後行為
無断で抵当権を設定した後にさらに第三者に無断売却・登記させた場合、前行為で抵当権分の価値が侵害されていても売却行為は新たな所有権侵害であり別罪(横領罪)を構成する。
主要論点・判例
  • 不法原因給付と横領(252条)賄賂目的・覚せい剤購入目的で預けられた金銭を費消した場合、給付者との関係で横領罪が成立するか(判例は横領罪の成立を肯認)。
Q80横領罪(252条1項)

事案土地の登記済証や実印を預かり保管中、Aに無断で使い土地を売却した。

理由登記手続書類や実印の預かり保管により法律上の占有を有する者が無断売却

Q81罪責は成立しない(不可罰)

事案賃貸期間が過ぎても立ち退かず3ヶ月間生活し続けた。

理由退去に応じない不作為のみでは不法領得の意思の発現行為とはいえない

Q82横領罪(252条1項)

事案株式購入委託の100万円を自己名義口座に預け入れ後、自己の借金返済に充てた。

理由委託を受けて自己名義口座に預金した金銭は委託者所有の金銭であり無断引出し・費消は横領

Q83業務上横領罪(253条)

事案サークル会計として管理する口座から自己の飲食のため10万円引き出した。

理由会計事務処理は「業務」にあたり、管理保管する預金口座から無断引出しは業務上横領

Q84銀行に対する詐欺罪(246条1項)

事案盗んだ通帳・印鑑を使って窓口で10万円を引き出した。

理由盗取した通帳・印鑑を用いて正当な受領権限者を装い窓口係員から現金を引き出す行為

Q85Xには詐欺罪(246条1項)の正犯、Yには窃盗罪(235条)の正犯

事案老人を騙して口座に振り込ませ、事情を知った共犯者がATMから引き出した。

理由欺罔により資金を振り込ませた行為は詐欺既遂。知ってATMから払い出す行為は銀行の意思に反する占有侵奪

Q86詐欺罪(246条1項)

事案誤振込みに気づきながら行員に告げず窓口でその10万円を引き出した。

理由誤振込みの事実を知った口座開設者は信義則上係員にこれを告知すべき義務がある 最判H15.3.12参照

Q87横領罪(252条1項)

事案土地購入代金として500万円を受け取ったが自己の飲食代や遊興費に費消した。

理由土地購入代金として託された金銭を不法領得の意思をもって流用・費消する行為

Q88業務上横領罪(253条)

事案酒屋店員が顧客から集金した代金で店に戻る前に馬券を購入した。

理由集金業務に基づき保管中の売上金は業務上の占有物であり、届ける前に自己のため費消する行為

Q89横領罪(252条1項)

事案代金完済まで所有権を売主に留保していた自動車を、完済前に無断で第三者に売却した。

理由所有権保留付売買の買主は完済まで他人の所有物を占有する者であり、無断売却は横領

Q90横領罪(252条1項)

事案機械を担保に融資を受け所有権をAに移転させたが、Aに無断でBに売却した。

理由譲渡担保に供した物件の所有権は担保権者にあり、担保設定者(占有者)が無断売却する行為は横領

Q91横領罪(252条1項)

事案譲渡担保として土地所有権を得ていたが、別の債務のために無断で根抵当権を設定した。

理由譲渡担保権者は清算義務を負う信託的受託者(占有者)であり、無断で根抵当権を設定・登記する行為は横領

Q92横領罪(252条1項)

事案賄賂を届ける依頼を受け現金を預かったが、惜しくなり自分の借金返済に充てた。

理由賄賂目的の給付(不法原因給付)であっても、委託保管金銭を不法領得の意思で自己の借金返済に費消する行為

Q93盗品等保管罪(256条2項)および横領罪(252条1項)の併合罪

事案盗まれたタイヤを換金するよう頼まれ預かったが、飲食代のため売却した。

理由盗品と知りつつ受託保管した行為で保管罪成立、さらに無断売却して利益を得る行為は横領

Q94盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)および横領罪(252条1項)の併合罪

事案盗まれたタイヤの換金を頼まれ売却したが、代金をAに渡さず自分の飲食代に使った。

理由盗品の売却を媒介した行為によりあっせん罪成立、売却代金(委託金銭)を自己消費する行為は横領

Q95器物損壊罪(261条)

事案美術品を預かったが、Aに恨みがあり困らせるため山に廃棄した。

理由単に損害を与える目的で破壊・廃棄する行為は不法領得の意思を欠き器物損壊罪となる

Q96Xには業務上横領罪(253条)、Yには業務上横領罪の教唆犯(61条・253条)

事案会社の機密書類を持ち出しB社のYに渡した。Yはコピーして元に戻した。

理由保管中の機密書類を短時間・返却目的であっても無断で持ち出しコピーさせる行為は不法領得の意思あり

Q97横領罪(252条1項)

事案旅行代金として預かった10万円を、後で埋め合わせればよいと思い自分の洋服代に充てた。

理由預かり現金を自己の用途に流用・費消する行為は後日埋め合わせの意思があっても横領にあたる

Q98業務上横領罪(253条)

事案会社を守りたい一心から、保管する資金1000万円を内規に反して国会議員に渡した。

理由会社のためを思っての行為であっても、内規に反して不法な工作資金として社外へ流出させる行為は横領

Q99業務上横領罪(253条)

事案自分の保身のため、保管する会社資金10億円を内規に反し乗っ取り妨害工作に渡した。

理由自己の解雇防止・保身目的で、調査もせず巨額の会社資金を内規に反して社外へ流出・支出する行為

Q100横領罪(252条1項)

事案土地を第1買主Aに売却(代金受領)後、未登記の段階で第2買主Bに売却・登記完了させた。

理由第1買主から代金を受領して登記移転義務を負う所有名義人は、第1買主との委託信任関係に基づく法律上の占有を有する

Q101Yには横領罪(252条1項)、Zには横領罪の共同正犯(60条・252条)

事案Yが同様の二重譲渡を計画し、Zに積極的に持ちかけて登記完了させた。

理由第2買主が単に事情を知るだけでなく積極的に加功した場合、横領罪の共同正犯となる

Q102Wには横領罪(252条1項)、Vには横領罪の共同正犯(60条・252条)

事案Dに加害目的を持つVが、Wに持ちかけ二重売買を実行させた。

理由第1買主への加害目的等をもって売主に二重譲渡を働きかけ実行させた第2買主は積極的加功者

Q103Uには横領罪(252条1項)、Tには横領罪の共同正犯(60条・252条)

事案絵画をEに売却(代金受領)後、未引渡しの段階でTに二重に譲渡・引渡した。

理由動産の二重売買において受託保管中の動産を第2買主に引き渡す行為は横領罪となる

Q104第1行為について業務上横領罪(または横領罪)が成立。第2行為は不可罰的事後行為

事案口座から無断で100万円を引き出し(第1行為)、3日後に債権者へ譲渡(第2行為)。

理由委託保管中の口座からの無断引き出しにより横領罪が既遂に達し、その後の現金の費消・譲渡は先行横領行為に吸収される

Q105有罪とすることは可能である(第2行為について横領罪が成立する)

事案第1行為(無断抵当権設定)は時効成立。第2行為(無断売却)についてYを起訴。

理由無断抵当権設定後になされた無断売却・所有権移転登記は、単なる担保権設定にとどまらない完全な所有権剥奪という新たな法益侵害を伴う

Q106第1行為および第2行為の双方について横領罪(252条1項)が成立し、併合罪(45条)となる

事案第1行為(抵当権設定)、第2行為(売却)いずれも公訴時効が成立していない。

理由無断抵当権設定と無断売却登記は、それぞれ独立して所有権を侵害する行為

Q107業務上横領罪(253条)が成立し、244条1項(親族相盗例)によりその刑が免除される

事案未成年者Aの祖母Xが後見人として管理する預金口座から50万円を無断で引き出した。

理由後見人としての預金管理事務は「業務」にあたる。祖母と孫は直系血族間であり親族相盗例が適用される

第14講

背任の罪

Q108〜Q11912問
条文・保護法益

247条(背任)

保護法益他人の財産上の利益および全体の財産状態

構成要件
要件
①他人の事務を処理する者(身分)、②任務違背行為、③図利加害目的、④本人への財産上の損害。
重要規範
横領罪と背任罪の区別
横領罪は個々の財物に対する排他的領得行為(領得罪)。背任罪は事務処理の委託に背いて本人の全体財産に損害を与える行為(利得罪)であり、両者は背任罪が補充的関係に立つ。
融資と背任
銀行支店長等の融資行為において、回収不能の予見、担保の不十分さ、会社存続・保身目的か否かを総合的に考慮し、認容・容認して不当融資を行った場合は背任罪が成立する。
主要論点・判例
  • 判例(背任成立の事例)信用保証協会支所長が返済不能と認識しつつ保証決定した事例(Q118)、弁護士が害意をもって有利な証拠を不提出とし敗訴させた事例(Q113)。
Q108背任罪(247条)

事案管理するソフトウェアのプログラムを無断で持ち出し、リース会社に渡した。

理由プログラム管理者として「他人の事務を処理する者」が図利・加害目的で機密情報を流出させ損害を与えた

Q109罪責は成立しない(不可罰・民事上の不履行)

事案50万円借りたが返済期限を過ぎても返済しなかった。

理由金銭借主の返済義務は自己の自己に対する債務の履行に過ぎず「他人の事務を処理する者」にあたらない

Q110背任罪(247条)

事案県知事の許可が下りることを条件に農地を売却する契約を結んだが、許可前に無断で抵当権を設定・登記した。

理由条件付農地売買の売主は知事許可取得・移転に向け買主のため協力・保全する「他人の事務を処理する者」

Q111背任罪(247条)

事案Aのため抵当権設定登記に必要な書類を交付したが、事情を知らないBとも抵当権設定契約を締結・登記した。

理由抵当権設定契約を締結した設定者は、相手方のために登記手続を完結させるべき「他人の事務を処理する者」

Q112背任罪(247条)

事案Aの荷物の監視を頼まれたが、Aに損害を与えようと思いあえて監視を怠った。

理由荷物監視の委託を受けた者は「他人の事務を処理する者」にあたり、加害目的であえて監視を怠る不作為

Q113背任罪(247条)

事案弁護士Xが、Aに有利な証拠を出せば勝訴できたのに、加害目的であえてそれをせず敗訴させた。

理由訴訟代理人弁護士は「他人の事務を処理する者」にあたり、加害目的で意図的に有利な証拠を提出しない行為

Q114背任罪(247条)

事案支店長が、回収不能かもしれないと思いながら十分な担保をとらず融資した。

理由銀行支店長は「他人の事務を処理する者」であり、回収不能の危険を予見・容認しつつ不当融資を行う行為

Q115背任罪(247条)

事案支店長が、回収困難と思いつつ会社存続のため担保をとらず追加融資した。

理由既存債権の回収不能回避目的であっても、客観的に回収困難と認識しつつ担保なく追加融資する行為は任務違背

Q116Xには背任罪(247条)の正犯、Yには背任罪の共同正犯(60条・247条)

事案資金繰りに困る両社の代表者が、不当高額な価格で絵画を買い取らせ合い、自社資金で購入させた。

理由他社の利益を図る目的で自社資金により不当高額な絵画を購入する行為は背任罪となり、これを依頼・共謀した代表者も身分なき共犯

Q117横領罪(252条1項)が成立する(背任罪は不成立)

事案Aから借りた自動車を、自己の借金返済に充てるため無断で売却した。

理由自己の占有する他人の動産を排他的に領得・売却する行為は横領罪にあたり横領罪が成立する以上背任罪は適用されない

Q118背任罪(247条)

事案信用保証協会の支所長が、友人の会社が返済不能状態にあると認識しながら債務保証を決定した。

理由信用保証協会の支所長は「他人の事務を処理する者」にあたり、返済不能と知りつつ保証を決定する行為は任務違背

Q119背任罪(247条)

事案支店長が、融資資格のない非組合員に対し手続を偽装して正規より高利息で貸し付けた。

理由独断支出の穴埋めという自己の保身・図利目的で、融資資格のない者に手続を偽装して不法融資を行う行為

第15講

盗品等に関する罪

Q120〜Q1267問
条文・保護法益

256条(1項:無償譲受け、2項:搬送・保管・有償譲受け・有償処分あっせん)

保護法益本犯(窃盗・強盗等)の被害者の追求権・回復請求の阻害防止

構成要件
客体
盗品その他罪悪により手に入れた財物(不法原因給付物含む)。
行為
譲受け・搬送・保管・処分あっせん。知情(盗品等の認識)。
重要規範
代償物・換金物
盗品等を売却して得た金銭や両替した金銭は、本犯の財物との同一性・直接性を欠くため原則として本罪の客体とならない(直接性の要件)。
保管開始後の知情
保管開始時には盗品と知らなかったが、保管途中で盗品であることを知った後もそのまま保管を継続した場合、知情後の保管継続により盗品等保管罪(256条2項)が成立する。
主要論点・判例
  • 被害者本人へのあっせん(Q126)盗品を被害者本人に高値で買戻させようとあっせんする行為も、追求権を害し受忍限度を超えるため処分あっせん罪が成立する。
Q120X、Yともに盗品等保管罪(256条2項)は成立しない

事案盗んだ1万円札を千円札に両替した。Xは事情を知りつつその千円札を受け取り保管した。

理由盗品等の客体は本犯により領得された財物それ自体(直接性)でなければならず、両替した現金は代償物・換金物にあたる

Q121盗品等無償譲受け罪(256条1項)は成立しない

事案覚せい剤の購入資金として預かった100万円を、知りながら譲り受けた。

理由盗品等とは本犯(財産犯)によって取得された財物をいい、委託を受けて預かった金銭(委託金銭)は本犯によって手に入れた財物にあたらない

Q122盗品等無償譲受け罪(256条1項)

事案売る気がないのにあるかのように装い覚せい剤代金として100万円を詐取し、事情を知りつつ譲り受けた。

理由詐欺罪(本犯)によって不法に取得された現金は「罪悪により手に入れた財物(盗品等)」にあたる

Q123盗品等有償譲受け罪(256条2項)

事案盗んできた覚せい剤を、盗品であると知りながら買い取った。

理由禁制品であっても被害者の所有権・追求権の保護対象となり盗品等性を有する

Q124盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)

事案盗品の売却のあっせんを依頼され行ったが、契約の成立には至らなかった。

理由処分あっせん罪は売買等の媒介行為(あっせん行為)を開始・介入した時点で既遂に達し、売買契約の成立までは要しない

Q125盗品等保管罪(256条2項)

事案所持していたウサギが盗品であるとは知らずに受け取り保管していたが、その後盗品であると知った。

理由保管開始時には善意であっても、盗品であることを知った後(知情後)も不法に保管を継続した場合に成立

Q126盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)

事案盗んだカメを飼っていたが、元の飼い主Bに買い取らなければ他に売り飛ばすと迫り高値で買取らせた。

理由被害者本人に対する売却あっせん・買い取らせ行為であっても、不当に高額な代金を支払わせ被害者の追求権・回復を著しく害する態様であれば本罪が成立

第16講

毀棄及び隠匿の罪

補拠問題1問
条文・保護法益

258条(公用文書等毀棄)・259条(私用文書等毀棄)・261条(器物損壊等)

保護法益物の財産的・物理的効用価値

構成要件
「損壊」「毀棄」の意義
物の効用を害する一切の行為。物理的破壊に限らず、感情上利用できない状態にすること(器物に尿をかける等)や心理的効用侵害を含む。
重要規範
不可罰的事後行為との関係
窃取した物を破壊・廃棄する行為は、窃盗罪の不可罰的事後行為となり別個の器物損壊罪は成立しない。
主要論点・判例
  • 効用喪失の具体例食器に放尿する行為、養殖いけすの網を切って魚を逃がす行為等は「損壊」にあたる。
補拠問題器物損壊罪(261条)

事案憎いAが所有する高級食器セットに尿をかけて立ち去った。食器自体に物理的な破損はない。

理由261条の「損壊」とは物理的破損に限られず、物に尿をかける等して感情上・衛生上利用できない状態にし物の持つ効用を害する行為も含まれる

第17講〜第19講第2章 社会的法益に対する罪

第17講

放火及び失火の罪

Q127〜Q1337問
条文・保護法益

108条(現住建造物等放火)・109条(非現住建造物等放火)・110条(建造物等以外放火)・112条(未遂)・113条(予備)

保護法益社会的安全及び公共の平穏(不特定または多数の人の生命・身体・財産)

構成要件
現住・人のいる建造物
現に人が住居に使用し、または現に人がいる建造物。
「焼損」の意義
独立燃焼説(判例・通説)。火が媒介物を離れて目的物(造作物)に燃え移り、独立して燃焼を継続し得る状態に達したこと。
重要規範
構造上一体性(延焼可能性)
複数棟や付属建物であっても、廊下・渡り廊下等で構造上接続され延焼可能性・一体的管理が認められる場合は全体として現住建造物にあたる(最決等)。
不燃性建造物と有毒ガス
不燃性建造物で造作物自体が独立燃焼しなかった場合でも、発生した有毒ガス等により人の生命・身体に危険を生じさせた場合は現住建造物等放火罪の未遂・既遂の問題となる。
110条における公共の危険の認識
110条1項の「公共の危険」の発生は客観的構成要件要素であり、認識(故意)は不要である(不要説)。
主要論点・判例
  • 平安神宮放火事件(Q129)祭具庫への放火について、廻廊で接続された社務所(宿直員就寝)への延焼可能性・一体性から現住建造物等放火罪(108条)の成立を肯定。
Q127現住建造物等放火罪(108条)

事案A宅廊下の古雑誌の束にライターで火をつけ、廊下の床板約1m四方を燃焼させた。

理由火が古雑誌から廊下の床板に燃え移り1m四方を燃焼させた時点で独立燃焼に達し既遂

Q128現住建造物等放火未遂罪(108条・112条)

事案不燃性建造物のため独立燃焼には至らなかったが、有毒ガスが発生し人の生命・身体に危険が生じた。

理由不燃性建造物で造作物自体が独立燃焼に至らなかった場合、「焼損」にあたらず既遂とはならない

Q129現住建造物等放火罪(108条)

事案平安神宮の祭具庫にガソリンを散布し放火。廻廊で接続された社務所(宿直員就寝)に延焼可能性あり。

理由人がいる社務所と木造の廻廊で連結され延焼可能性・構造上一体性が認められる場合は全体として現住建造物

Q130非現住建造物等放火罪(109条1項、現住建造物等放火は不成立)

事案無人の研修棟に放火。渡り廊下で宿泊棟(104名在館)と連結されるが、防火扉があり可燃物なし。

理由渡り廊下に防火扉があり延焼可能性に合理的疑いが残る場合、宿泊棟との構造上一体(現住建造物)とは認められない

Q131現住建造物等放火未遂罪(108条・112条)

事案耐火構造の鉄筋コンクリート造3階建てマンションの空室に放火したが未遂にとどまった。

理由人が多数居住するマンションの一室への放火は、耐火構造でも他区画へ火炎・煙が波及する危険があるため現住建造物全体に対する放火未遂

Q132建造物等以外放火罪(110条1項)

事案駐車中の無人の自動車にガソリンをかけ放火、一部を焼損。周囲建造物に延焼危険なし。

理由建造物以外の物(自動車)に放火して焼損させ、周辺車両やゴミ集積場に延焼の危険(公共の危険)を生じさせた場合に成立

Q133X、Yともに建造物等以外放火罪(110条1項)の共同正犯(60条)

事案単車の焼損を共謀し放火。公共の危険発生の認識はYにはあったがXにはなかった。

理由110条1項の「公共の危険」の発生は客観的構成要件要素(結果)であり、その発生についての認識(故意)は不要

第18講

文書偽造の罪

Q134〜Q14411問
条文・保護法益

154条〜158条(公文書偽造・変造・作成・行使)・159条〜161条(私文書偽造・変造・行使)

保護法益文書に対する社会的な信用および名義人と作成者の同一性(形式主義)

構成要件
「偽造」の概念
作成権限のない者が他人の名義を冒用して文書を作成すること(形式主義)。
名義人と作成者
名義人とは文書から理解される意思表示の主体、作成者とは文書に意思表示を付した実質的作成者。
重要規範
名義人の承諾と偽造
名義人の承諾があっても、文書の性質・名義の不代替性(交通事件原票の供述書名義等)から本人の意思表示性が決定的に重要な文書の場合、承諾に基づく作成であっても偽造罪(159条等)が成立する。 最判S56.4.8
コピー作成による文書偽造
真正な文書を切貼・複写して実質的に新しい証明文書のコピーを作成する行為は、コピー自体が文書としての社会的信用を有するため有印公文書偽造罪となる。 最判S56.4.30
氏名の定着
密入国者が偽名を長期間一貫して定着使用していた場合であっても、公的な再入国許可申請書に他人の正規名義を記載する行為は冒用・偽造となる。
主要論点・判例
  • 最判S56.4.30(Q134)供託金受領証の記名押印部分を切貼し複写機でコピーして虚偽の受領証写しを作成した行為は有印公文書偽造罪を構成する。
Q134有印公文書偽造罪(155条1項)

事案供託金受領証の記名押印部分を切貼・複写機でコピーし、受領証の写しであるかのような外観を作出した。

理由真正公文書の記名押印部分を切貼・複写して実質的に新たな証明文書のコピーを作出する行為はコピー自体の社会的信用を侵害する偽造 最判S56.4.30参照

Q135有印公文書偽造罪(155条1項)

事案市民課係長が、申請書の提出と手数料の納付をさせずに自己の用に供するため印鑑証明書を作成した。

理由補助者が作成手続上の実質的・形式的要件を無視・逸脱して文書を作成した場合は公文書作成権限を欠く無権限者による作成(偽造)

Q136間接正犯は成立しない(不可罰)

事案私人が虚偽の証明願を村役場係員に提出し、村長名義の虚偽の証明書を作成させた。

理由虚偽公文書作成罪(156条)は身分犯であり、157条(公正証書原本不実記載等)に該当しない限り私人を同罪の間接正犯として処罰できない

Q137虚偽公文書作成罪(156条)の間接正犯

事案地方事務所建築係Yが、情を知らない所長をして虚偽の現場審査合格書に署名捺印させた。

理由公務員身分を有する起案補助担当者が、情を知らない作成権限者を利用・支配して虚偽の公文書を作成させた場合に成立

Q138私文書偽造罪(159条)は成立しない

事案上司Aの承諾を得て、行使の目的でA名義の私文書を作成した。

理由名義人Aの適法な承諾に基づく作成であれば、作成者と名義人の人格的同一性を偽る「冒用(偽造)」にあたらない

Q139有印私文書偽造罪(159条1項)

事案無免許運転の取締りで、あらかじめ承諾を得ていたBの氏名等を用いて交通事件原票中の供述書を作成した。

理由交通取締りにおける供述書は本人の不代替的な意思表示性が決定的に重要であり、名義人の承諾があっても冒用・偽造となる 最判S56.4.8参照

Q140私文書偽造罪(159条1項)

事案密入国者が他人の氏名を長期間定着使用した上、その名義の再入国許可申請書を作成した。

理由仮に通称として定着していても、公的な申請文書において実在する他人の正規名義・属性を冒用する行為は人格の同一性を偽る偽造

Q141私文書偽造罪(159条1項)

事案指名手配中のXが、偽名を用い履歴書・雇用契約書等を作成した。

理由履歴書・雇用契約書において存在しない虚偽の人物像・氏名を冒用して作成する行為は社会的信用を害する人格同一性の偽造

Q142有印私文書偽造罪(159条1項)

事案弁護士資格のないXが、同姓同名の弁護士であるかのように装い、弁護士報酬金請求書等を作成した。

理由同姓同名であっても、実在する弁護士としての社会的属性・肩書を冒用して文書を作成する行為は名義人の同一性を偽る偽造

Q143私文書偽造罪(159条1項)

事案発給権限のない団体から委託され、国際運転免許証に酷似した文書を作成した。

理由発給権限のない団体名義であっても、一般人に真正な国際運転免許証と誤信させる外観・形式を備えた文書を作成する行為は偽造

Q144有印私文書偽造罪(159条1項)

事案理事として登録されていたXが、理事会決議録と題する書面に虚偽の内容を記載し自己の印を押した。

理由適法な選任権限(作成権限)を欠くにもかかわらず、議事録署名人名義で虚偽の決議録を作成する行為は有印私文書偽造

第19講

有価証券・支払用カード等偽造の罪

補拠問題1問
条文・保護法益

162条・163条(有価証券偽造・変造・行使)・163条の2〜5(支払用カード電磁的記録不正作出等)

保護法益有価証券および支払用カードの取引上の信用・安全

構成要件
有価証券の意義
財産上の権利が券面に体現され、権利の行使・移転に券面の所持を要するもの(小切手・手形・株券等)。
重要規範
偽造と変造
偽造は無権限での作成(名義冒用)、変造は既存の真正な券面の非本質的部分(金額等)を権限なく改ざんすること。
主要論点・判例
  • 無権限者による小切手・手形の振出行為有価証券偽造罪(162条1項)となる。
補拠問題有印有価証券偽造罪(162条1項)

事案行使の目的で、他人の約束手形用紙に無断で名義人の印章を捺印し、金額欄に100万円と記載して手形を完成させた。

理由手形振出権限のない者が、他人の名義を冒用して約束手形(有価証券)を作成する行為

第20講〜第23講第3章 国家的法益に対する罪

第20講

賄賂の罪

Q145〜Q1517問訂正あり
条文・保護法益

197条〜198条(収賄・受託収賄・事前収賄・第三者供与・加重収賄・事後収賄・贈賄)

保護法益公務の職務執行の不可買収性および職務の公正に対する社会の信頼

構成要件
主体
公務員または公務員になろうとする者。
「職務に関し」
一般的職務権限、およびこれと密接に関連する行為。
重要規範
197条の構造
1項前段=単純収賄、1項後段=受託収賄(請託を受けて)、2項=事前収賄(公務員になろうとする者が、担当すべき職務に関し請託を受けて)。公務員になった場合に初めて処罰される。
現職公務員と事前収賄罪の限界【Q147訂正ポイント】
事前収賄罪(197条2項)は「公務員になろうとする者」、すなわち未だ公務員でない者を対象とする規定である。既に公務員である者が、再選後等に担当すべき具体的職務につき請託を受けて賄賂を収受した場合は、一般的職務権限を既に有する以上、受託収賄罪(197条1項後段)が成立する(再選の成否を問わない)。 最決S61.6.27
職務関連性
警察官が告発状提出者から助言・情報提供名目で現金を受領する行為や、国立大学教授が論文審査後謝礼を受領する行為は「職務に関し」にあたり収賄罪となる。
恐喝と賄賂の併存
公務員が検挙態度を示唆して相手方を畏怖させて金員を受領した場合、相手方の違法・便宜的措置への期待(買収意思)が併存していれば収賄罪と恐喝罪の観念的競合となる。
主要論点・判例
  • 最決S61.6.27(Q147)現職市長が、再選された場合に担当すべき具体的職務の執行につき請託を受け3000万円を受領した事例。受託収賄罪(197条1項後段)が成立する(再選の成否を問わない)。
Q145収賄罪(197条1項前段)

事案学位請求論文を審査し合格させた国立大学教授が、謝礼として100万円を収受した。

理由国立大学教授は法令により公務に従事する公務員にあたり、論文審査事務は職務権限内であって、合格後の謝礼も「職務に関し」受領した賄賂にあたる

Q146収賄罪(197条1項前段)が成立する

事案警察官が、告発状提出者から捜査情報の提供・便宜な取り計らいを求める趣旨で現金50万円を受領した。

理由警察官の一般的職務権限やこれと密接に関連する指導・助言・情報提供行為も「職務に関し」に含まれる

Q147受託収賄罪(197条1項後段)の共同正犯(60条)✓ 訂正済み

事案現職市長が、再選された場合に担当すべき具体的職務(市庁舎建設工事の入札等)につき請託を受け、現金3000万円の供与を受けた。

理由市長は現職として市発注工事の入札管理という一般的職務権限を既に有しており、再選後の具体的職務につき請託を受けて賄賂を収受した場合は再選の成否を問わず受託収賄罪が成立する 最決S61.6.27

基本講座・外部判例と照合し、原本の誤りを訂正済み(詳細は末尾の訂正履歴を参照)。

Q148事後収賄罪(197条の3第3項)

事案宅建業係長Xが不正な便宜供与の謝礼を受けたが、受領時には他部署へ出向していた。

理由公務員であった者が、過去の職務上不正な行為に関し、公務員を離れた(出向)後に謝礼を受領した場合に成立

Q149収賄罪(197条1項前段)

事案教員Xが、生徒への好意ある指導の謝礼として小切手の供与を受けた(季節の贈答を慣行としていた)。

理由社会的慣行の名目であっても職務上の好意的指導に対する対価として小切手を受領すれば賄賂となる

Q150恐喝罪(249条1項)および収賄罪(197条1項前段)の観念的競合(54条1項前段)

事案警察官Xが検挙する態度を示し畏怖させ、相手方から現金5万円を受け取った。

理由畏怖させて金員を交付させた(恐喝罪)一方で、相手方にも寛大な措置を期待する買収意思(収賄罪)が併存する場合は観念的競合

Q151恐喝罪(249条1項)および加重収賄罪(197条の3第1項)の観念的競合(54条1項前段)

事案税務署職員Xが査定を厳しくする態度を示し畏怖させ、現金5万円を受領して基準より低い査定を行った。

理由厳しい査定を示唆して畏怖させ金員を受領し、かつ実際に対価として不当な査定を行った場合は観念的競合

第21講

公務の執行を妨害する罪

Q152〜Q1587問
条文・保護法益

95条(公務執行妨害・職務強要)

保護法益国家の適正かつ円滑な公務の執行

構成要件
要件
公務員が職務を執行するに当たり、暴行または脅迫を加えたこと。
重要規範
公務の「適法性」の要件
①職務権限内であること、②抽象的・具体的管轄権を有すること、③法律上の重要な要件・方式を満たしていること。適法性は行為当時の具体的状況に基づき客観的に判定される。 最判S41.9.6
違法な職務執行への反抗
警察官の職務執行が客観的に不法・違法である場合(違法な連行等)、これに対する反抗行為は公務執行妨害罪(95条)を構成しない。
違法性の誤信(事実の錯誤)
警察官が要件を満たし適法に逮捕手続を行っているにもかかわらず、被疑者が「逮捕状がない」「無実だから逮捕は違法だ」と誤信して暴行を加えた場合、職務の適法性は客観的に満たされており故意は阻却されない。
主要論点・判例
  • 最判S41.9.6職務の適法性は裁判所が客観的事実に基づき事後的に判定する。
Q152公務執行妨害罪(95条1項)

事案教室で授業中の市立中学教員Cを、生徒Xが殴打して授業を中断させた。

理由市立中学教員の授業事務は公務員の適法な職務執行にあたり、身体に向けられた暴行を加えて中断させた行為

Q153公務執行妨害罪(95条1項)

事案県議会委員会の委員長Bが休憩を宣言し退室しようとした際、審議打切りに抗議してBを殴打した。

理由休憩宣言後の委員長の退室・移動行為も一体の職務執行中にあたり、これに対する暴行は本罪を構成

Q154公務執行妨害罪(95条1項)

事案議長Aが討論を一切省略し動議を採決しようとしたので、これを阻止するため暴行を加えた。

理由議事進行上の手続に軽微な瑕疵があっても、重大・明白な違法でない限り職務の適法性は維持される

Q155公務執行妨害罪は成立しない(不成立)

事案職務質問中の警察官Aが、無理やり路地まで強制連行しようとしたのでAを殴って逃走した。

理由任意捜査としての職務質問において、腕をねじ上げ強制連行する行為は許容される限度を超え客観的に違法

Q156公務執行妨害罪(95条1項)

事案逮捕状を適法に示し要件・方式に従って逮捕しようとした警察官を殴打して逃走、後に無実と判明した。

理由裁判官の発付した逮捕状に基づき要件を満たして行う逮捕は客観的に適法な職務であり、事後的に無実と判明しても適法性は阻却されない

Q157公務執行妨害罪(95条1項)

事案逮捕状を示されたのに見ていなかったため、「逮捕状がないから違法だ」と誤信して警察官を殴って逃走した。

理由逮捕手続が客観的に適法に行われている以上、「逮捕状がない」という誤信は違法性の錯誤に過ぎず故意を阻却しない

Q158公務執行妨害罪(95条1項)

事案万引きを発見した警察官が現行犯逮捕しようとしたが、「逮捕状がなければ逮捕は許されない」と誤信し殴って逃走した。

理由現行犯逮捕(刑事訴訟法212条)は客観的に適法な職務執行であり、「逮捕状が必要」という独自の法的解釈の誤りは故意を阻却しない

第22講

犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪

Q159〜Q17416問
条文・保護法益

103条(犯人蔵匿等)・104条(証拠隠滅等)・105条(親族による特例)

保護法益国家の刑事司法作用(捜査・裁判の適正な運用)

構成要件
客体
「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」(犯人・被疑者)、「他人の刑事事件に関する証拠」。
重要規範
自己の証拠の隠滅と教唆
自己の刑事事件の証拠を隠滅する行為は自己保身の情として不可罰であるが、他人に指示・教唆して自己の証拠を隠滅させた場合は証拠隠滅罪の教唆犯(61条・104条)が成立する(判例)。
共犯者間の証拠隠滅
共同正犯者の一方が、共犯者のため(助ける目的)に凶器を捨てるなど証拠を隠滅した場合、それは「他人の刑事事件に関する証拠」の隠滅にあたり証拠隠滅罪(104条)が成立する。
親族間の特例(105条)
親族が犯人または逃走者のために103条・104条の罪を犯したときはその刑を免除することができる(一身的処罰阻却事由)。
主要論点・判例
  • 身代わり出頭犯人でない者が身代わりとして警察に出頭し虚偽供述を行う行為は、犯人蔵匿・隠避罪(103条)を構成する。
Q159犯人蔵匿・隠避罪(103条)

事案友人Aが強盗事件の被疑者として追われていると聞かされ、無実を確信し逃走資金と場所を与えた。

理由103条の「罪を犯した者」には犯罪の捜査・追跡対象となっている被疑者も含まれ、無実を確信して発見・逮捕を妨げる行為は隠避にあたる

Q160犯人隠避罪(103条)

事案組長Aが殺人事件の被疑者として逮捕・勾留されたことから、身代わり犯人として出頭し虚偽供述をした。

理由真犯人の身代わりとして出頭し虚偽供述を行う行為は発見・逮捕を妨げる「隠避」にあたり、結果として釈放されなくとも既遂

Q161罪責は成立しない(不可罰)

事案指名手配中のXが、自分の別荘に身を隠した。

理由犯人自身が逃走・隠匿する行為は自己保身の自然な欲望に基づくものであり、期待可能性を欠くため不可罰

Q162Zには犯人蔵匿罪(103条)が成立する。Yは不可罰(教唆不成立)

事案指名手配中のYが、友人Zに頼み匿ってもらった。

理由友人を自宅に匿う行為は103条の「蔵匿」にあたる。犯人自身の逃亡依頼は通常の逃亡行為の範囲内として教唆罪を構成しない

Q163証拠隠滅罪(104条)

事案友人Aの強盗事件の目撃者として、「犯人はAでない」との虚偽の上申書を作成し警察に提出した。

理由「他人の刑事事件に関する証拠」には供述書・上申書等も含まれ、虚偽の上申書を作成・提出する行為は証拠の偽造・隠滅にあたる

Q164罪責は成立しない(不可罰)

事案友人Aの強盗事件の目撃者として供述を求められた際、「犯人はAでない」と口頭で虚偽の供述をした。

理由証拠隠滅罪(104条)の「隠滅・偽造」とは実体的な証拠物件に対する加害・作成をいい、取調べにおける単なる口頭の虚偽供述はこれに当たらない

Q165証拠隠滅罪(104条)

事案口頭で虚偽供述するとともに、警察官がその供述内容を録取した供述調書に署名捺印した。

理由単なる口頭供述にとどまらず、警察官作成の供述調書という実体的証拠文書に署名捺印して虚偽証拠を完成させた場合に成立

Q166Yには証拠隠滅罪(104条)の正犯、Xには証拠隠滅罪の教唆犯(61条・104条)

事案経理部長Xが横領の嫌疑で捜査される前に友人Yに事情を話し、帳簿を自宅に隠してもらった。

理由自己の証拠隠滅は不可罰であっても、他人に指示・教唆して自己の証拠を隠滅させた場合は教唆犯が成立する

Q167Yの廃棄行為は不可罰。Xにも罪責は成立しない

事案窃盗事件の被疑者となっているYから聞き、使用したドライバー等を捨てるよう助言した。

理由犯人本人が自己の証拠を隠滅する行為は不可罰であり、不法な正犯行為が存在しない以上これに助言したXにも教唆・幇助の罪責は成立しない

Q168証拠隠滅罪(104条)

事案XとYが共謀し共同してAを刺殺。Yが逮捕され取調べを受ける中、Xは自分が逮捕されないと思いYを助けるため凶器を川に廃棄した。

理由共犯関係にある者であっても、共犯者Yのため(他人の刑事事件)に凶器を廃棄・隠滅した場合は「他人の証拠」の隠滅にあたる

Q169罪責は成立しない(不可罰)

事案ZとWが共謀しBを刺殺。Wが逮捕され取調べを受ける中、Zは自分も逮捕されると思い凶器を川に廃棄した。

理由共犯者の証拠の隠滅であっても、主たる目的が自己の逮捕・発覚防止(自己の刑事事件の証拠隠滅)にある場合は不可罰とされる

Q170犯人隠避罪(103条)

事案組長Xと組員YがA殺害を共謀、Yが刺殺。Yが逮捕されると自分も逮捕されるおそれがあると思い、自分の別荘に身を隠すようYに指示し逃走させた。

理由自己の犯行発覚防止の意図が併存していても、共犯者Y(他人)を匿い逃走・隠避させる行為は「他人の隠避」にあたり犯人隠避罪を構成する

Q171Yには犯人蔵匿罪(103条)が成立する。Xには犯人蔵匿罪の教唆犯(61条・103条)が成立し、105条(親族間の特例)により刑が免除され得る

事案息子Aが詐欺事件の被疑者として追われているのを知り、友人Yに事情を話し「Aを匿ってくれ」と依頼した。

理由親族が他人に依頼して犯人を匿わせた場合、教唆犯が成立するが105条の適用により刑を免除することができる

Q172Yには犯人隠避罪(103条)が成立し105条により刑免除され得る。Xには犯人隠避罪の教唆犯(61条・103条)が成立する

事案友人Aが詐欺事件の被疑者として追われているのを知り、Aの父親Yに事情を話し「逃走資金を渡したらどうか」と提案した。

理由親族Yが逃走資金を渡す行為は103条の隠避となり105条で刑免除の対象となる。親族でないXがこれを唆した場合は教唆犯となり105条は適用されない

Q173Yには犯人隠避罪(103条)が成立し105条により刑免除され得る。X(被疑者本人)は不可罰

事案詐欺事件の被疑者として追われていたXが、父親Yに事情を話し「逃走資金をくれ」と依頼した。

理由被疑者本人の逃亡・隠避要求は自己保身として不可罰。父親Yの資金提供は犯人隠避罪となり105条の親族特例により刑が免除され得る

Q174Yの廃棄行為は不可罰。Xも罪責を負わない(不可罰)

事案息子Yが詐欺事件の被疑者として追われていることを知り、詐欺に使用した偽造文書を廃棄するようYに指示した。

理由犯人Yの自己証拠廃棄は不可罰。親族Xが犯人本人に自己の証拠を廃棄するよう指示・教唆する行為も期待可能性を欠き105条の趣旨から不処罰・不可罰とされる

第23講

偽証の罪

Q1751問
条文・保護法益

169条(偽証)・170条(自白による刑の減免)・171条(虚偽の鑑定等)

保護法益国家の審判作用・裁判の真実性

構成要件
要件
法律により宣誓した証人が、虚偽の陳述をすること。
重要規範
「虚偽」の概念(主観説・判例)
「虚偽の陳述」とは、自己の記憶・認識に反する陳述をすることをいう(主観説・判例)。客観的事実と合致していても記憶に反していれば偽証罪(169条)となる。
被告人による偽証教唆
被告人・犯人自身であっても、公判廷の証人に対して買収・働きかけを行い、宣誓の上で虚偽の証言をさせた場合、偽証罪の教唆犯(61条・169条)が成立する。 最判S28.3.12
主要論点・判例
  • 最判S28.3.12(Q175)被告人が買収により証人に虚偽の証言を依頼・実行させた場合、偽証罪の教唆犯が成立する。
Q175Yには偽証罪(169条)の正犯、Xには偽証罪の教唆犯(61条・169条)が成立する

事案公職選挙法違反(買収)事件の被告人Xが、証人Yに「買収の事実はなかったと証言してくれ」と頼み、Yは公判廷で宣誓の上虚偽の証言をした。

理由被告人自身であっても、公判廷の証人Yに働きかけて記憶に反する虚偽の証言(主観説)を実行させた場合、防御権の行使を逸脱した不法行為として偽証罪の教唆犯が成立する 最判S28.3.12参照

訂正履歴(基本講座・判例照合済み)

✓ 訂正済み第20講 Q147(賄賂の罪)

現職市長が再選後の具体的職務につき請託を受け賄賂を収受した事案。当初の結論 「事前収賄罪(197条2項)」は誤りで、 「受託収賄罪(197条1項後段)」が正しい(最決昭和61年6月27日)。 事前収賄罪は「公務員になろうとする者」を対象とする規定であり、既に公務員である現職市長には適用されない。 引用判例も「最判S58.12.20」から「最決S61.6.27」に訂正。

✓ 訂正済み第9講 Q42(事後強盗の罪)

窃盗後に現場を離れ公園で現金を確認後、再び住居に戻って脅迫した事案。当初の結論 「建造物侵入未遂」は、同一の家屋(A方住居)についての 表記が初出の「住居侵入・窃盗罪」と矛盾する誤りであり、 「住居侵入未遂」が正しい。 基本講座の対応判例(最判平成16年12月10日)の原文でも一貫して「住居」と表記されている。

✓ 誤字訂正済み第4講 Q18(住居等を侵す罪)

マンション共用部分への立入り事案の事実関係中、「掲示板に掲信する」は 日本語として成立しない誤字であり、「掲示板に掲示する」に訂正。 結論(建造物侵入罪の成立)自体に影響はない。

✓ 訂正済み第7講 Q26(窃盗の罪)

自首・服役目的でCDを持ち出し派出所に提出した事案。当初の結論 「窃盗罪(235条)が成立する」は誤りで、 「窃盗罪は成立しない(不法領得の意思を欠く)」が正しい。 不法領得の意思には権利者排除意思に加え、経済的用法に従い利用・処分する意思(利用処分意思)が必要であり、 提出・廃棄するのみで物自体を利用・処分する意思がない場合はこれを欠く(最決平成16年11月30日参照)。